【アーサーT】とは、アメリカのスーパーマーケットチェーン【マーケットバスケット】のCEO(最高経営責任者)の愛称である。
2017年【奇跡体験アンビリバボー】では、このアーサーTに関わる奇跡のスーパーマーケットの物語を特集。
ここでは、アーサーTを取り上げたアンビリバボーのネタバレを一挙、掲載していきましょう。
アーサーTが社長を務める【マーケットバスケット】とは?
アメリカ・マサチューセッツ州、メイン州、ニューハンプシャー州などに、スーパーマーケットを79店舗手掛けるチェーン会社【マーケットバスケット】。
1916年にギリシャから移民してきた兄弟が力を合わせて、食料品店を立ち上げたのが始まり。
移民してきた兄弟にそれぞれ子供ができて、1954年に子供たちに店は相続されたことから、【マーケットバスケット】が生まれ、チェーン店を3州に渡って拡大していった。
家族経営で運営は行われており、マーケットバスケットは、顧客に低価格や信頼のおけるサービスを提供。
アメリカ最大級のスーパーマーケットチェーン・ウォルマートとは一線を画した人気を誇っていた。
他店と比べても、商品の価格は安く抑えられており、約200万人が利用する店であったという。
アーサーTについて
物語の主人公となるアーサーTは『アーサー・T・デモーラス』氏であり、2008年からマーケットバスケットの社長に就任。
アーサーTの経営哲学は一貫して、『人』に重きをおいており、会社を支える従業員を大事にし、顧客が満足するサービスを提供することに尽力をしていた。
その為には例え会社自体の儲けが少なくなってもいいという考えだった。
実際にアーサーTは会社とは社会の為にあり、商売よりも人を優先すると豪語しており、働く従業員の賃金は、他よりも高く設定し、福利厚生やボーナスなども充実させていた。
またどの店より商品を安く、訪れるお客に提供するということをしていた為に、結果的にアーサーTが社長に就任した後の売上高は功を奏する。
それまではマーケットバスケットの年間売上高は約30億ドル(日本円にして3400億円)だったのが、アーサーTが就任してからは、約40億ドル(4550億円)にまで増加。
従業員数も14000人から25000人までに増えて、その経営手腕は非常に認められており、顧客や取引先、従業員からもアーサーTは愛されていたのだ。
アーサーTに忍び寄るもう一人のアーサー
そんなアーサーTには従兄弟のアーサーSという人物がいた。
アーサーSというのは、『アーサー・S・デモーラス』といい、実はマーケットバスケットの取締役会を牛耳っていた人物。
兼ねてより利益よりも顧客や従業員を大事にするという考え方のアーサーTと、アーサーSは反目しあっていた。
アーサーSはアーサーTが株主を充分に儲けさせていないとし、その運営方針や理念に疑問を呈していた。
マーケットバスケットの株式はアーサーTが49.5%保有し、アーサーSや他の親族株主が50.5%保有していたことによって、実質、決定権はアーサーSにあった。
2014年6月、マーケットバスケットの取締役会は、アーサーTを解任する意向を発表し、追放してしまったのである。
アーサーTとアーサーSの違いは?
アーサーTは人に重きをおいており、アーサーSは利益を追求する真逆のタイプである。
従業員を家族の様に敬い、利益は人を人財にする為の投資として考えて、福利厚生にその利益を多く使っていた。
お金だけではなく、真心をあり、従業員の家族に不幸があった場合は葬儀に駆け付けたり、不慮のアクシデントに見舞われた場合は積極的に協力を申し出ていたという。
まさに使われる方になれば、これだけのことをしてくれる社長などは錚々いないのであり、それは従業員なども理解していた。
かたやアーサーSは、利益はあくまでトップが最大級に得れるものであるとし、血の繋がりがある株主の利益が最優先であるという姿勢をかためていた。
アーサーTが社長となり、年間売上高は10億ドルも上昇し、店舗数も増えたが、株主への配当が少ないと不満を漏らし激怒したアーサーSは、取締役会を抱き込んで、アーサーTを追放する画策をしたのはこういった背景があったのだ。
アーサーTが社長をクビになったが・・・
アーサーTが社長を退いた直後、アーサーSら取締役会は、2人のCEOを雇い入れたが、その経営状態は下降することに。
更にアーサーTを信奉していた幹部8人が、職場放棄を断行するという事態に陥った。
それをみた従業員も仕事をボイコットし、何とこの騒動はマーケットバスケットの顧客にも伝染し、大規模なデモ活動が行われる事態になったのだ。
しかし、これだけで済んではいなかった。
アーサーSや新しいマーケットバスケットの運営からすれば、悪夢の様な状況に陥ることになる。
アーサーTは会社の従業員や顧客だけではなく、取引先の会社や配送センターの人間にも慕われていた。
以前から出来るだけそれらの外部の人間にも協力を惜しまずに、問題を穏便に解決してきた為に、マーケットバスケットの騒動を聞きつけたそれら外部の社員らもボイコットに加わったのだ。
ボイコット運動はセンターと店舗の物流を担うトラック運転手にも波及した為に、商品は店舗に届けられずに、販売員そのものもいない状態であった。
これでは何をどうやっても売り上げを上げることは出来ないことは当然である。
更にマーケットバスケットの従業員たちは、それまで利用していた顧客にこう宣言していたという。
”『アーサーTが会社に帰ってくる為の抗議活動が叶うまで、マーケットバスケットで商品を買わないで。』”
この宣言に対して、多くの一般客も騒動に加わり、デモ活動やSNS上での抗議などをするようになり、全米に騒動が波及したのだ。
と、いうのも、マーケットバスケットが出店の際に選んでいた地域は、実は低所得者が多く住む地域であった。
そこには当然、ウォルマートなどの強豪店と争うことになっても、構わない。
安さが売りでサービスも充実していれば、低所得者はこぞってマーケットバスケットを利用することが分かっていたからだ。
結局、マーケットバスケットを利用していた顧客の多くは、ウォルマートなどで騒動中は買い物をせざるえない。
が、そこでも競合店で買った商品のレシートなどを、店の入り口に貼り付けて、こういって抗議の材料とした。
”『今日、マーケットバスケットはこれだけ損をした。 マーケットバスケットは自分たちの為にある。』”
もはやここまで来ると、どうしようもない状態であり、社会現象になったといっても過言ではない。
社会現象化したアーサーTを再び社長にするという抗議活動は、ついに政治家までも動かした。
アーサーTがマーケットバスケットの社長に返り咲く
マーケットバスケットの従業員などが率先して抗議活動を行った期間は約2か月。
実は政治家なども動かざる得ない事態まで膨らんでいた。
それはマーケットバスケットにボイコット運動によって商品を卸せない業者の多くが、それぞれが懇意にしている政治家らに泣きついたのだ。
商品の多くは時間が経てば、売り物にならなくなり、結局、それらは不良在庫となる。
それは即ち関連会社にも大打撃をくらう状態であるために、これを改善しようとニューハンプシャー州とマサチューセッツ州の知事が、和解交渉の為の仲介役となり、提案したという。
結局、知事やその他の政治家160人を巻き込むほどの騒動になり、政治家などの交渉などもあって、アーサーSをはじめとする親族株主の55.5%の株式を、アーサーTが15億ドルで買うということで、ボイコット運動は鎮静化をたどったという。
15億ドル(1707億円)は当然、アーサーTが全て払えるものではなかったが、地元の有力者やマーケットバスケットを支持する者たち、投資会社などが、資金を援助したことによって実現したのだった。
アーサーTとマーケットバスケットの現在
アーサーTはこうして2014年8月にマーケットバスケットの社長兼CEOに返り咲いた。
6週間続いた騒動で開けた穴は非常に大きなものであったが、すぐにマーケットバスケット、関連会社の運営は再開し、顧客もすぐに戻った。
アーサーTは社長復帰後、簡易的に作られた配送トラックの荷台に乗り、スピーチをして従業員と顧客に対して最大級の賛辞を送った。
そして、
”『働く人にとっての誇りと、尊厳ある職場を提供すること。 その文化を守ることが人の道であり、企業の社会的責任である。』”
と、力強く述べて、多くの喝采を浴び、その模様は現在でも各動画メディアで閲覧できるものになっているのだ。
このアーサーTに起きたマーケットバスケットの内ゲバと顛末は記録として、日本でも書籍化されている。
その名も『奇跡のスーパーマーケット』として。
おわりに
アーサーTのこれらの模様はアンビリバボーでも特集が組まれて紹介されるが、事前段階としてネタバレを書いてみた。
アーサーTデモーラスの様な経営者ならば、当然、人もついていくのは頷けるし、こうした経営者は現在は非常に少ないといえる。
利益を追求することは当然であるが、目先の利益ばかりを優先してしまってもアーサーSの様な不幸を辿ってしまうことは、この奇跡の物語をみてもよく分かる。
世界的に大成功を収めたといっていい、GoogleやAmazonなども実はその成功要因は非常にシンプルである。
利用する顧客を大事にし、従業員にしっかりと利益を還元するということを目的にしているからである。
それをお金に囚われずに、前向きに背負って実直に行動したアーサーTだからこそ、この史上まれにみる奇跡のスーパーマーケット物語をつくったといえるのではないだろうか?